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福岡家庭裁判所 昭和40年(家)1168号 審判 1965年8月06日

申立人 島田律子(仮名)

右法定代理人親権者母 島田サチ子(仮名)

相手方 林孝男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、同女の扶養料として金二万円を即時に、昭和四〇年八月分以降毎月末日限り金四、〇〇〇円宛を、いずれも申立人に送金して支払え。

理由

一、本件申立の要旨及び経過

申立代理人は、相手方は申立人に対し同女の扶養料として昭和三二年八月一日以降毎月金五、〇〇〇円宛の割合による金員を、昭和五〇年三月まで支払えとの審判を求め、その実情として次のように述べた。

申立人は相手方の実子であるが、申立人の母島田サチは相手方に妻子あることを知らず、相手方が恰かも独身であるように装い婚姻を申込んできたので、昭和三〇年一〇月頃から相手方と性的関係を持つようになり、その結果昭和三二年八月一日申立人が出生した。ところが相手方は、申立人が自分の子であることまで否認し、扶養どころか認知まで拒否するに至つたので、申立人は昭和三六年六月二〇日福岡地方裁判所に認知請求訴訟を提起し、(同庁昭和三六年(タ)第二八号事件)昭和四〇年一月一四日同裁判所において申立人勝訴の判決を得たのであるが、相手方は福岡高等裁判所に控訴しているのみならず、申立人の扶養請求にも応じない。相手方は、自衛隊に勤務している三等空尉であり、応分の給料を得て生活も安定しているのに対し、申立人は現在漸く満八歳に達しようとしている幼女で、その母も無職で現在生活保護の受給によつて生計を辛うじて維持している窮状にあるので、月額五、〇〇〇円宛の扶養料支払を申立人の出生時以来昭和五〇年三月まで求めるというにある。

当裁判所は昭和四〇年四月一七日以降同年七月一〇日まで五回に亘つて調停を試みたが、遂に不調に終つた。

二、当裁判所の判断

本件記録にある申立人及び相手方の戸籍謄本、福岡地方裁判所昭和三六年(タ)第二八号認知等請求事件の判決書写、取り寄せした福岡高等裁判所昭和四〇年(ネ)第一三六号事件記録によつて申立人と相手方間の関係について検討してみるのに、当裁判所も亦前示第一審判決に判示されたとおり、申立人は、相手方が申立人の母島田サチ子との間に昭和三〇年一〇月頃から約一ヶ年間にわたつて月二、三回の割合で情交関係を結んだ結果懐妊された子であること、又このことは前顕記録にある鑑定人牧角三郎の鑑定書によつても明らかで、これを動かすに足る資料は何等発見されない。そうだとすれば、申立人の相手方に対する認知請求は正当として認容さるべきで、申立人出生時以来申立人と相手方との間には親子関係が形成され、相手方における申立人の扶養請求に対しこれに応ずべき義務のあることも当然である。

そして扶養の程度方法について、当裁判所調査官畑地久子の調査報告書、福岡市東福祉事務所長大神好毅の生活保護証明書、相手方の給与明細書によつて、これを検討してみるのに、申立人は漸く満八歳に達しようとしている小学二年生の幼女であり、申立人の母サチ子は無資産無職で、昭和三五年一二月以降昭和四〇年七月まで月額約一万五、四五八円の割合による生活保護受給者で申立人ら母子と祖母を含む三名が最低の生活を営んでいるのにひきかえ、相手方は、自衛隊に勤務している三等空尉で、手取月額三万八、五七〇円の給与を受け、妻と昭和二六年四月生れの長女和子の扶養にあたつていること、及び申立人の母から福岡地方裁判所昭和三六年(タ)第六九三号慰藉料請求訴訟を提起され、昭和四〇年一月一四日金二〇万円の慰藉料支払を命ぜられ、該事件も目下控訴審において係争中であることなど、諸般の情状を考量すれば、相手方は申立人に対しその扶養料として月額四、〇〇〇円(生活扶助基準額表による六歳-八歳の幼女の月額三、二七五円で、一五歳-一七歳の幼女の月額は四、四九五円である。)の割合によつて、これが支払義務ありと認定するのが相当である。そこで本件扶養申立のなされた昭和四〇年三月以降同年七月分まで五月分の金二万円については即時に、同年八月分以降については毎月末日限り、それぞれ申立人に対し送金してこれが支払いを命ずることとする。猶申立人は出生時の昭和三二年八月一日以降昭和五〇年三月(中学校卒業時までと推定される)までの支払いを請求しているが、本件申立(昭和四〇年三月一七日受理)以前の過去の扶養料については、扶養料そのものの性質上(申立人、相手方間の情況に応じ可変的なもので、その把握が困難であるから、損害賠償もしくは不当利得として請求すべきである)これを認めるに適しないばかりでなく、その終期に関しても事情変更その他によつてこれが変更もあり得ることが予想されるので、これを明示しないこととする。よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 厚地政信)

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